株式会社日立ハイテクノロジーズ(執行役社長:中西 宏明/以下、日立ハイテク)は、このたび、ELITechGroup社(本社:イタリア/以下、ELITech社)と、感染症全自動PCR検査システムの共同開発・事業化に関する提携・製造・供給契約を締結しました。本契約に基づき、日立は、光分析および自動化の強みを生かし、本システム(日本でのブランド名は「LABOSPECT GA-5」)をELITech社に供給します。本システムは、連続的なサンプルおよび試薬のロード、ランダムアクセス、サンプル調製から測定までの自動化されたワークフローを実現するよう設計されており、微生物学およびウイルス学研究所の効率向上を目的としています。
本システムは、2025年10月に横浜で開催されるJACLaS EXPO 2025に出展し、診断のプロフェッショナルや機関ユーザーの皆様にその機能をご覧いただく予定です。
なぜ重要なのか
COVID-19のパンデミック以来、PCRベースの分子診断が広く使用されるようになりましたが、多くのラボでは依然として半自動化または労働集約的なワークフローに依存しています。日立とエリテックは、完全自動化と柔軟なスループット(ランダムアクセス、連続ローディング)により、ターンアラウンドタイム、人件費、エラー率を大幅に削減できると考えています。自動化を推進することは新しいことではありませんが、サンプル前処理、試薬ハンドリング、リアルタイム分析を単一の合理化されたシステムに統合することは、特に信頼性と規制当局のバリデーションの必要性を考慮すると、技術的に困難です。
日立は、測定・分析システム、電子顕微鏡、臨床分析装置、Lumadaプラットフォームによるデジタルソリューションなど、複数の分野で既存の強みを有しています。一方、エリテックは、欧州市場、特に診断ラボ向けの試薬および流通における経験を有しています。このように、両社のパートナーシップは補完的なものです:日立の自動化+計装のノウハウとエリテックの診断領域と市場チャネル。
こちらもお読みください: ランテウスとGEヘルスケア、日本におけるPYLARIFYで提携
日本のヘルスケアおよびバイオテクノロジー分野への影響
この提携は、日本における診断薬、ライフサイエンス、バイオテクノロジー全体に重要な意味を持ちます:
1. ラボオートメーションの導入加速
日本の臨床検査機関や民間診断チェーンは、より多くの検査量、複数の検査項目、より厳しいターンアラウンド要求に対応するため、完全自動化システムをより積極的に採用する可能性があります。そうなれば、国内検査機器メーカーや試薬開発企業の需要が伸びる可能性があります。
2. 上流の研究開発と試薬イノベーションの活性化
この変化は、試薬メーカー、分子生物学企業、バイオテクノロジー新興企業を新しい化学物質の開発に駆り立てるかもしれません。また、完全自動化システム用のマルチプレックス・パネルや統合カートリッジが開発されるかもしれません。品質管理や予知保全にAIを活用する企業が優位に立つでしょう。
3. 世界の診断薬市場におけるプレゼンス強化
日立は、エリテックの販売ネットワークを通じて、世界中のより多くの顧客にアプローチすることができます。その結果、日本の計測機器メーカーやライフサイエンス企業は、国内販売だけでなく、輸出でより多くの利益を得ることができるようになるでしょう。
4. 統合とパートナーシップのダイナミクス
診断用ハードウエアやソフトウエアをめぐる複雑な規制は、中小企業を提携や合併に向かわせるかもしれません。日立製作所の動きは、富士フイルム、シスメックス、島津製作所など他の日本企業の戦略変更に刺激を与えるかもしれません。
ビジネスへの影響と課題
チャンスは大きいものの、その道に障害がないわけではありません。以下は、ビジネスレベルでの主な検討事項です:
- 規制と検証のハードル: 臨床診断薬を実際の現場で使用するためには、厳密なバリデーション、規制当局の承認(日本ではPMDA、欧州ではCEマーキング、その他の市場ではそれぞれの当局)、そして継続的な品質保証が必要です。遅延や却下があれば、展開が遅れる可能性があります。
- 高い開発費と資本コスト: 統合された信頼性の高いシステムの開発にはコストがかかります。企業は深い研究開発投資と、リスクと資本配分を管理するための業務規律を必要とするでしょう。
- 競争と標準ロックイン: 他のグローバルプレーヤー(例:ロシュ、アボット、サーモフィッシャー)も全自動分子診断プラットフォームを推進しています。日立とエリテックは差別化(コスト、柔軟性、モジュール性、スループット)を提供し、シェアを獲得する必要があります。最初にデファクトスタンダードになった企業が、知的財産とスイッチング・アドバンテージを獲得できるかもしれません。
- サプライチェーンと試薬エコシステムの調整: システムはその消耗品(試薬、カートリッジ)があってこそです。試薬の品質、互換性、コストを維持することは非常に重要です。
- 採用の慣性と組織の予算サイクル: 病院、公衆衛生機関、研究所は通常、ワークフローの調整に時間がかかります。新システムへの投資を控えるかもしれません。特に、予算が限られていたり、診療報酬が低かったりすると、この傾向が顕著になります。
日本の技術・産業セクターへの広範な影響
今回の提携は、診断薬にとどまらず、日本のハイテク企業や産業界にとって注目に値する、より広範な変化をいくつか示唆しています:
- 異業種融合の深化:日立の動きは、産業オートメーション、デジタル・プラットフォーム、ライフサイエンス、AIがいかに融合しているかを明確に示しています。伝統的な「産業技術」企業は、バイオテクノロジー/ヘルスケアに深く進出しています。
- 研究開発の水準とエコシステムへの期待の向上 このような高イノベーション領域で競争するためには、日本企業はより高い統合性(メカトロニクス+ソフトウェア+バイオテクノロジー)を追求し、人材を集め、プロセスを合理化しなければなりません。
- 輸出とソフトパワーの活用: 次世代診断薬での成功は、日本の世界的な技術ブランドを高め、システム、試薬、プラットフォームビジネスモデルの川下への輸出を可能にします。
- デジタルヘルスと個別化医療の活用 精密医療、早期発見、ゲノミクス、AIを活用した診断への需要が高まる中、ハードウェア、ソフトウェア、生物学の交差点に位置する企業が戦略的勝者となる可能性が高いでしょう。
結論
日立ハイテクとエリテックの提携による全自動PCRシステムは、単なる診断のブレークスルーではありません。日本のハイテク、バイオテクノロジー、産業界の融合という将来の方向性を示しています。もし実用化に成功すれば、診断薬の競争が変わるかもしれません。これはエコシステムにおけるイノベーションを後押しするかもしれません。また、世界の医療技術における日本の役割も強化されるかもしれません。この変化は、機器、試薬、AIアナリティクス、デジタルヘルスのビジネスに期待と破壊の両方をもたらします。競争の場は変わり、物事はより速く動いています。

